ユーザー体験向上の謳い文句でコンテンツブロッカーは広まるのか
iOS9のsafariからWEBサイトの広告をまるっと消し去るコンテンツブロッカー(広告ブロック)が実装され、これが今後普及するのか否か、広告モデルで飯を食う人たちは戦々恐々としていることでしょう。ウチは大したマネタイズができておらず、収入的にはあまり関係ないのですが、個人的にはAppleの愚策と思っていて今後の影響については非常に興味をもっています。
というわけで、今更ながらちょっと考えてみたのでここでメモっておきます。
iOS9のコンテンツブロッカー(広告ブロック)のおさらい
各所で散々記事が載っているので、コンテンツブロッカーに関しては以下の記事あたりを御覧ください。■iOS 9で広告ブロック!メディア運営者なら知っておきたい現状と対策
要点としては、
・広告ブロックはiOS9ではデフォルトでONになっていない
・広告ブロックをONにするには、3rdパーティ製のアプリが必要
・あくまでiOSのsafariでのみ機能し、アプリ内ブラウザやWEB VIEWでは機能しない
・もちろんsafari以外のブラウザアプリ(Chrome等)でも機能しない
という点で、一番重要な点は
「AppleとしてはiOS9で機能を用意しただけで、アプリベンダーがそれを使ったアプリを提供している」
という建前の部分です。
ユーザーが無意識でデフォルトで(OSの機能として)使えるわけではなく、意志を持って3rdパーティ製アプリをDLし、設定方法を理解して実行しないとダメという大前提があります。
ただし、Googleアカウントの二段階認証のような複雑さはなく、非常に簡単に設定できるので、マジョリティ層まで普及する可能性もあるという感じでしょうか。
んで、iOSにおける広告ブロックは普及するか?
とは言え、んなことは分からない!w
こればっかりはAppleの思惑がどこにあって、どうもっていくのか全く読めないからです。
でも個人的には「広告ブロックを目的とした流れでは大して広がらない」と思っています。
が、「通信量やバッテリー使用量を軽減する」「読み込み時間を短縮する」というUX(ユーザー体験)の改善がピックアップされてコンテンツブロッカーがバズると、大きな流れになる可能性があると思っています。
Appleのこれからの動き
まあAppleのやることは私ごときで読めるはずもないんですが、これ以上の施策、すなわちOSベースで完全に広告をブロックしてしまうようなことはさすがにしないだろうと考えています。そこまでバカではないだろうと。
有料コンテンツブロッカー「Peace」の作者が、
・劣悪な広告だけでなく、ちゃんとした広告も全て殺してしまう
・ユーザーとパブリッシャー間での戦争になってしまう
との理由で僅か2日間でアプリを取り下げたように、OSベースで広告ブロックを実装してしまうと、WEBの生態系を壊し各所で争いが勃発することになります。
■iOS 9の人気「広告ブロック」アプリ、公開2日で取り下げ──「多くの人を傷付けるから」
Googleを軸として、反コンテンツブロッカー対策とのイタチごっこも容易に予想でき、ユーザーとパブリッシャー双方で疲弊するだけの未来が待っています。
今は、「AppleとしてはiOS9で機能を用意しただけで、アプリベンダーがそれを使ったアプリを提供している」
という逃げ道を用意して様子見をしている段階だと思います。
来年 iOS10の頃、文化として広告ブロックが支持を集め抵抗がなくなったとすれば、その時OSベースで実装するのかも知れません。
アプリデベロッパーの動き
今はCrystalのような有料アプリが売れていて、雨後の筍のように続々とコンテンツブロッカーが登場しています。ただしマネタイズが難しいアプリなので、今後は無料でデファクトになる数本だけ残ってあとは淘汰されると思います。まずCrystalのような有料アプリは、一部のコア層を取り切った時点で売れなくなりますし、メディア側としても金を払ってでも広告をブロックしたい層はそもそも広告クリックなんかしない層なのであまり影響はないでしょう。
そもそも広告をタップしてくれるのは通常1.5%〜3%くらいで、97%はスルーの世界ですからね。
早くも無料アプリが多数出てきており、広告ブロックのみ使いたいユーザーは全て無料アプリに移行します。
1Blockerのような、無料で広告ブロックを提供しつつ他の機能を併用したかったら¥360みたいなアプリも課金する人は少ないでしょう。無料で広告ブロックが使えるわけですし。
まさか、広告ブロックアプリが広告モデルでマネタイズできるはずもなくw、結果的に無料でのブランディングアプリとして提供するしかなくなると思います。
広告ブロックアプリでユーザーを集めて会社の実績にしたり、他のアプリ、サービスへ誘導するといった形しかないのかなと。
もう一点、ホワイトリスト化ビジネスという方法もありますが、プラットフォーマーレベルでやらないと意味がありません。各アプリベースで金を取ってホワイトリスト化なんて規模が小さすぎて論外だと思います。
そもそもホワイトリストという関所ビジネスはスマホ時代には機能しません。
日本のケータイキャリアの公式サイトビジネスや、自演乙で形だけとなった悪名高きEMA(一般社団法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)と言った国内の関所ビジネスが機能しなくなり、誰でも簡単に参加できるAppStore、Google Playに取って代わられたことをみても明らかです。
アプリ単体でホワイトリストは無意味ですし、まさかAppStoreで成功したAppleがホワイトリスト化をするとも思えません。
一方で、コンテンツブロッカーアプリは各国のローカルアドネットワークにも対応していかないとユーザー体験は不十分なものになります。現在の主なコンテンツブロッカーでも、Google Adsenseは消せても日本のアドネットワークの広告は多くが消せていません。
今後国内アプリの登場で対応は進んでいくとは思いますが、Googleや各アドネットワーク各社も可能な限り対抗策を取るので、イタチごっこになる可能性があります。
常にそのイタチごっこへの対応を迫られるので、アプリのメンテ工数もバカにならず手離れの悪いアプリになります。
結果、早い段階でデファクトを勝ち得た数本の無料コンテンツブロッカーだけに淘汰されるのではないかと思っています。
ユーザーの動き
既に書いてきたように、AppleがOSベースで広告ブロック機能を入れ込まない限り、「広告をブロックする」目的でのコンテンツブロッカーの普及は限定的だと思っています。・全ての広告が消えるアプリは難しく、イタチごっこのため満足度が低い(面倒なだけ)
・「コンテンツブロッカー利用者は閲覧できないサイト」の登場でUXはますます悪化
・アップデートが追いつかなくなり、中途半端に機能する方が邪魔になってくる
という流れで、広告ブロック機能だけでは大きなうねりにはならないと思っています。
ただし!
Appleが表向きにUX向上として掲げている「通信量の削減」「表示速度の向上」「バッテリー使用量の削減」が予想以上の体験をユーザーに与えてしまった場合、一気に普及する可能性があるとも思っています。
ブラウザにおけるネットサーフィンがサクサクになって、バッテリーの持ちもはっきりと体感できるくらい伸びたとしたら、コンテンツブロッカーを入れる動機にはなりますよね。
しかも設定自体は誰でも簡単にできるレベルなので、アーリーアダプターだけでなくマジョリティ層にも十分浸透します。
そうなってくると、特にiPhone依存度の高い日本では広告収入に影響を受けると思われます。
iPhoneを買ったら必ず入れておくべきアプリとして紹介されるようになり、TVで紹介されたり、入門書でも定番アプリとして紹介されるようになると一気に広まるでしょう。
「通信量の削減」「表示速度の向上」「バッテリー使用量の削減」に関しては、完璧に広告を消せなくとも体感ベースで相対的に実感できればいいので、Adsenseだけ消えるだけでも十分という点がメディアとしては辛いところですね。
また、iPhone6Sから実装された「3D-Touch」によるpeek(プレビュー)機能を快適に使うには広告が邪魔という問題もあって、Appleとしては全面的にUX向上のためのコンテンツブロッカーなのだとプッシュしてくるのでしょう。
iPhone6S、iPhone7…と、peek機能が使えるユーザーが増えるにつれコンテンツブロッカーがマストになる可能性があります。
コンテンツブロッカーが普及すると動画広告がヤバイ?
※たまたますぐに動画広告を出せるアプリで最初に引いた広告なので他意はありませんもうお分かりだと思いますが、コンテンツブロッカーが普及する最大の理由が「通信量の削減」「表示速度の向上」「バッテリー使用量の削減」である以上、「あれ? 無料アプリで流れる動画広告って凄い通信量じゃね?」となるのは当然の流れです。
データ量が多そうに見える全面広告(インタースティシャル広告)や動画広告の通信量に対して、今まで以上に敏感になるユーザーが増え、嫌悪感が増すのではないかと危惧しています。
ブラウザでバナー広告を遮断したところで、アプリで動画広告をバンバン再生されたら全然意味がないですからね。
safariでネットサーフィンする時間よりもゲームで遊ぶ時間の方が長い人は多いでしょう。
safariで広告を遮断しているユーザーにとって、たとえ5秒でも強制的に流れるアプリでの動画広告はかなりのマイナス感情になると思います。
ただでさえアイコン広告はAppleにリジェクトされる現状、単価の高い広告として日本のユーザーにも少しづつ根付いてきたかなという気がしていただけに、ここで逆風になるとしたらアプリ開発者にとっても辛い状況になるかも知れません。
Appleの方向転換を祈るのみ
今回のコンテンツブロッカーは、益虫も害虫もまとめて殺す強力な殺虫剤となり得る愚策だと思っています。広告だけでなくGoogle Analyticsの計測さえ無効にしてしまうわけですから、データ解析の精度まで低下させる点でもやり過ぎでしょう。
本当にAppleがユーザー体験の向上を理由にするのなら、可能な限り害虫だけを駆除し、益虫やユーザーに還元する、利便性を高める施策を試行錯誤しながら段階的に導入していくべきだと思います。
そんな都合のいい方法があるのかは分かりませんし、結局イタチごっこなので根本から全て封じてしまえなのかも知れませんが、あまりに短絡的で長い目で見ればユーザー体験を向上するとは思えません。
そもそもGoogle Adsenseは出稿規定もメディア側の規定も厳しく、世界一まともな広告媒体です。
1ページに貼れる広告数も決まっていてその数は少なく、違反しているとすぐに警告、アカウント停止が待っているのでそれほどユーザー体験は損ねていないはずです。
そのAdsenseを始め、Amazonアソシエイト等の比較的まともな広告を狙い撃ちし、かつ広告ブロックを提供しているのはアプリベンダーですから・・と予防線を張るようなやり方は個人的に気持ちのいいものではないんですよね。
ユーザー体験の向上と言われても全然ピンときません。
一番の問題はエロバナー入稿を大量に受け、メディア側は設置数規定もろくに守らず、パクリサイトや劣悪なまとめサイトを提携メディアとして黙認している国内広告会社の方です。
一体何を審査しているのかという状況がずーっと続いており、これがユーザーの過剰な広告嫌いを加速させています。
こういった質の悪いサイト、広告会社をブロックできず、まともな広告会社とサイトが一律で被害を受けている時点で現状のコンテンツブロッカーは本末転倒です。
今後コンテンツブロッカーがどうなっていくかまだ現段階では予想しづらいですが、iOS10では方向転換せざるを得ない・・という状況になればいいなと思っています。
あとがき
WordPressのプラグインもいろいろ出てくると思うので、何らかの対応はしないといけなくなるかなあとか思ったり。@J_kumagaiさんをフォロー
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@J_Kumagai
Axel Games運営者兼ライターの熊谷です。
スマホゲームに特化して遊びまくっています。
なお、現在Axel Gamesではライターさん募集していますので、もし興味ある方いらっしゃいましたらメール下さい!(axelgames00[@]gmail.com)
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